災害発生時に威力を発揮するテレワークの導入

テレワーク

テレワーク導入には
PC端末などの貸与が必須です

民間会社の調査によると、新型コロナの蔓延に伴う対策で、やっておけば良かったものの第1位として、テレワーク制度の整備が挙げられていました。

新型コロナウイルスの蔓延を受け、政府の強い推奨もあり、テレワークを導入した会社も多いと思いますが、導入前に最低限必要な準備があります。

大阪府のA商事株式会社(従業員約300人)の事例ですが、導入準備が全く整わないまま、1回目の緊急事態宣言中にテレワークを導入しました。

しかしながら、社員に パソコンなどの業務用の端末を貸与できなかったため、テレワークといいながら、実質は自宅待機の状態で、全く業務を遂行することができず、
また、一部簡単な業務指示をしていたので、実質休業状態でしたが、この間の雇用調整助成金の申請を断念せざるをえなくなり、大きな損失を被りました。

災害は感染症だけではありません。
日本で事業を展開する限り、地震や台風などの自然災害に遭遇するリスクを避けることができません。リスク管理の観点からも、会社への出勤を必要としないテレワークの導入は非常に有効です。

テレワークと労働時間

テレワーク時も出勤時と同様の労働時間管理が求められる

テレワークと労働時間管理

テレワークであっても、労働者には労働基準法が適用されます
すなわち、1日の労働時間は8時間までですし、1週間の労働時間は40時間が上限です。(一部の業種を除く)

これらの時間を超え、社員に仕事をさせる場合には、時間外手当いわゆる残業代を、1日であれば8時間を超えた時間に応じて、社員に支払う必要があります。

テレワーク下では、客観的データにもとづく労働時間管理が難しい場合も

タイムカード

会社に出勤しているときであれば、タイムカードによる出退勤管理など、客観的手法で、社員の労働時間を管理することができました。
そのため、残業代についても、時間外業務の時間に応じて、支払われていたことと思います。

しかしながら、テレワーク下にあっては、これまで有効だった個々人の労働時間を客観的に把握する手段が、使用できない可能性があります。

特に、事前に十分な準備もなく、テレワークをはじめた会社などでは、社員の勤務時間をどのように管理すべきか頭を悩ませたところも多かったのではないかと思います。

社員による残業代の不払い告発で、ブラック企業とのレッテルを貼られる恐れも

ブラック企業

労働時間管理がきちんとできていないことでまず問題となるのは、
残業代の支払いです。

万が一、1日8時間、1週間40時間を超えて社員を働かせたにもかかわらず、残業代を支払っていない場合、会社は労働基準法違反に問われることになります。

もし、不払い残業の実態があるとして社員が外部に告発し、それがマスコミ報道などで公になると、会社はブラック企業とのレッテルは貼られてしまうことになりかねません。

一度ブラック企業とのレッテルを貼られてしまうと、そのイメージを払拭するのは容易ではありません。
社員が世間から白い目で見られるだけではなく、新卒学生の採用にも影響し、優秀な学生が採用できず、長期的に会社が低迷するきっかけとなる恐れもあります。

未払い残業代は過去3年に遡って支払い義務がある

未払い残業代

2021年4月の民法改正で、賃金未払い債権の時効が2年から3年に延長されました。

すなわち、これまではもし何らかのミスで残業代の未払いが発生しても、発生した時点から2年遡り、未払い相当額に遅延損害金をプラスして支払えば良かったものが、
今後は、3年遡って支払う必要があります。

もし、会社全体でテレワークを導入し、対象となった社員全員の労働時間管理がきちんとできておらず、全社員の未払い残業代3年分を一括で支払うとなると、会社の資金繰りに大きな影響を与えてしまうかもしれません。

このように、労働時間管理については、厳密に実施しないと、会社に多大なリスクをもたらす可能性があります。

テレワーク下では、上司が部下の労働時間をしっかり管理することが重要

テレワーク

したがって、テレワーク下であっても、実際に出勤している時と同様に労働時間管理をする必要があります。

始業終業時および休憩時については、あとで検証可能となるよう、必ずメールで上司に連絡するなどのルールをテレワーク導入前に定めておく必要があります。

また、残業が必要となる場合には、社員の判断で勝手に残業させるのではなく、
事前にメールで上司に残業申請をし、上司が認めたものしか残業とはしないなどのルールも定めておくことが必要となります。

テレワークと有給休暇活用

テレワーク下で有効な時間単位有給休暇の活用

時間単位有給休暇

テレワーク下では、上司や周囲の目がないため、自由に仕事ができると思われがちですが、
基本は、会社で勤務している時と同様の働き方が求められます

しかしながら、自宅でテレワークをしている際には、
ちょっとした買い物に出るや、金融機関に振込にいくなど、普段会社での勤務中にはできないことも、自宅でテレワークをしているからこそ可能となることもあります。

このようなちょっとした時間を自由に使えるようにするには、時間単位の有給休暇を活用します。

時間単位の有給休暇は、1休暇年度あたり5日間まで

時間単位有給休暇

有給休暇は、本来まとまって労働から離れる時間をつくることで、労働者を心身ともにリフレッシュさせるというのがその趣旨です。

そのため、有給休暇の取得は半日単位で取得することは認められても、時間単位での取得は認められていませんでした。

しかしながら、昨今の働き方改革の気運を受け、2010年より時間単位での有給休暇の取得が可能となりました。

ただし、保有している有給休暇が10日だとすると、その10日すべてを時間単位で取得することはできません。
1休暇年度あたり5日間までとの縛りがあり、
10日有給休暇を保有しているのであれば、5日までを時間単位で取得することが可能となります。

また、時間単位での有給休暇制度を導入するにあたっては、
事前に労使で協議のうえ、有給休暇の時間単位での使用に関する協定の締結する必要があるので、注意が必要です。

テレワークと労災

自宅やカフェなど、普段の勤務場所以外でも業務中における怪我は労災の対象

労災保険の対象

業務時間中に社員が怪我をした場合は、業務上の災害として労災保険給付(労災)の対象となります。

テレワークで自宅やカフェなど、会社以外の場所であっても勤務時間中であれば、労災保険の対象となります。

例えば、自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くために作業場所を離席したあと、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒しして負傷したなども対象となります。

業務時間中の怪我は、本人の申告にもとづき労災を申請する

労災保険

社内とは違い、自宅で誰も見ていないところでした怪我は、本当に業務に関連したものなのかと疑ってしまいがちです。

そのため、労災の認定は慎重にしたいと考えがちですが、
会社として定めた業務時間内での怪我であれば、多少疑念が残っても本人の申告に基づき、当局に労災の申請をしましょう

労災の申請をすると、後から労働基準監督署の調査があり、面倒なことになると考えがちです。

社内で発生した怪我であれば、オフィス内の整理整頓が行き届かず、通路においていた物にひっかかるなどが原因であれば、労働基準監督署の立ち入り検査で、会社の安全配慮義務違反として指導を受ける可能性があります。

しかしながら、テレワークで自宅で発生した事故であれば、会社として安全配慮義務違反に問われる可能性はまずありません

労働基準監督署の目を気にして、労災を申請しないのではなく、基本業務時間内における自宅での負傷については、労災と認められるので、きちんと申請しましょう。

業務時間中の怪我は、本人の申告にもとづき労災を申請する

テレワークと労災保険申請

業務上の怪我は、健康保険は使用できませんので、注意が必要です。

テレワークで自宅勤務中に社員から労災を疑われる怪我の報告があった際には、
健康保険は使用しないように指導し、
労災を扱っている病院・医院を受診するよう連絡します。

また、労災には、窓口で治療費を払わず怪我の治療を受けることができる現物給付以外に、もし怪我の後遺症が残れば、障害補償給付として、別途お金が支給される制度があります。

軽い怪我で労災を申請するのが面倒だからといって、社員に労災を使用させず、健康保険を使用させると、万が一後から後遺症が発生したときに、該当社員は労災であったら認められていた、障害補償給付を受給することができなくなります

そのことが原因で、該当社員から訴訟を起こされるリスクがありますので、自宅での怪我に限らず、労災が疑われる事案については、労災適用を必ず申請するというあたりまでのことが、後のリスクを回避するうえで重要となります。

テレワークと育児・介護

テレワークの活用で、育児・介護従事者は仕事との両立がしやすく

テレワークの活用で効率的に育児・介護

コロナ禍の前から、働き方改革が推奨され、長時間残業の温床ともなっていた非効率な働き方からの脱却が求められています。
コロナ禍にあっては、テレワークによる働き方が推奨されていますが、なし崩し的に導入されたテレワークは、コロナ禍における緊急避難的意味合いが強いため、育児をしながら、介護をしながらの勤務が認められているかもしれません。

しかしながら、本来テレワークは、会社と変わらない環境で、集中しての業務遂行が求められるものです。

そのため、状況が一旦落ち着いたならば、テレワーク中は、業務に支障のない環境の中で、業務に集中するよう徹底させることが必要となります。

働き方改革の文脈の中で、テレワークの利用が語られることがありますが、これは、自宅で働きながら子どもの面倒をみる、介護をするといった意味ではありません。

小さい子どもを育てている共働き家庭であれば、毎朝保育園に子どもを預けに行く、
介護をしている共働き家庭あれば、要介護者をデイサービスに預けてから出勤することになるかと思います。

そのような方々は、通勤時間不要のテレワークを活用することで、効率良く働くことが可能となります。

働き方改革において、育児・介護従事者のテレワーク活用が推奨されたのは、働き方に余裕を生み出し、育児・介護と仕事を両立しやすくするためとの理由です。

原則例外は認めず、テレワーク中は全社員が業務に集中する

テレワーク・業務に集中

もし、緊急避難的にテレワーク活用として、本来の業務時間中に育児や介護の時間を認めてしまうと、すべての時間集中して勤務している社員とのバランスが取れなくなります。

最終的には、集中して勤務している社員からの不満やクレームにより、社内の一体感が損なわれ、社員のモチベーション低下リスクを生み出すことになります。

テレワーク時であっても業務時間中は全社員が業務に集中するとの意識を高めることが、無用なリスクを避けることになります。

テレワークと情報管理

テレワークと機密情報の管理

機密情報の管理

会社は様々な機密情報を扱っています。
そのような情報を紙ベースで扱っているのであれば、通勤の途上で散逸する恐れがあるので、会社から持ち出すことは厳禁です。

そうなると、そのような情報を扱う業務についている方は、テレワークができないことになってしまいます。
そのような方が多数在籍している場合は、今後のことも考え、紙ベースで保管するのはなく、管理を厳重に施した会社のサーバーにデータとして管理することが求められます。

会社のサーバーに保管しておけば、どこからでもパソコンなどの電子機器でアクセス可能となります。
ただし、そのような機密情報については、個々の端末に絶対に保存しないといった社員に対する注意喚起が必要となります。

パソコンなどの端末の管理

パソコンなどの端末の管理

テレワークとして、家や外出先で業務を遂行するには、パソコンなどの端末が必要になります。
会社貸与の端末を持ち出すのであれば、社員が紛失したときのリスクを考慮し、個々の会社のパソコンには、機密情報や顧客の個人情報などを保存しないことが求められます。

また、中のデータを部外者にみられないよう、パソコンを立ち上げた際に要求するパスワードは定期的に変えていくことも必要です。

会社のパソコンを貸与せず、社員個人が保有するパソコンを使用するのであれば、自宅や外出先からのWi-Fi接続時には、必ず暗号化するなどの対策が必要となります。

コロナとの共存が求められる社会では、従業員への安全配慮との観点から、テレワークは大変有効な手段です。

今回の流行を機にテレワークを導入したが、どのような形で運用するのがいいのか迷われている会社も多いかと思います。

そのような会社も、今後本格的に導入を検討している会社も、
テレワークの導入に際し、お悩みの点がありましたらお気軽にご相談ください。


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