ブログ
売上目標と法令遵守の板挟みで、現場が不正に向かうとき
企業は、売上と利益を確保しなければ存続できません。
そのため、営業部門に目標を設定し、その達成を求めること自体は当然のことです。むしろ、経営として必要な取組みといえます。
しかし、その目標が現場に過度な圧力としてかかり、「何としてでも達成しなければならない」という空気が強くなったとき、コンプライアンス違反は起こりやすくなります。
本来守るべきルールが、「今月だけはやむを得ない」「この程度なら問題ない」「みんな同じようなことをしている」と正当化され、不適切な対応や不正につながっていくのです。
コンプライアンス違反は、ルールを知らないから起こるとは限りません。
現実には、ルールを理解していても、売上目標、上司からのプレッシャー、評価への不安、職場の空気などが重なることで、違反に向かってしまうことがあります。
今回は、売上目標と法令遵守の板挟みの中で、なぜ現場が不正に向かいやすくなるのか、そして企業として何を見直すべきかについて考えてみたいと思います。
なぜ営業現場ではコンプライアンス違反が起こりやすいのか
営業現場は、会社の業績を直接左右する部門です。
数字が見えやすく、成果が評価に直結しやすいため、どうしても結果が強く求められます。
もちろん、成果を求めること自体が問題なのではありません。
問題は、数字だけが過度に重視され、その過程や手段に対する関心が薄くなったときです。
たとえば、次のような状況は、多くの企業で起こり得ます。
あと一件で月間目標を達成する
未達成が続くと評価や賞与に影響する
上司から繰り返し進捗確認や督促がある
周囲は数字を上げているように見える
顧客からも強い要望が出ている
こうした状況が重なると、現場では次第に「正しいかどうか」よりも「達成できるかどうか」が優先されやすくなります。その結果、説明不足、誇大な案内、必要な確認の省略、書類の後追い処理、報告の先送りや隠蔽といった行為が起こりやすくなります。
最初は本人も、「ここまでなら大丈夫だろう」「後で整えれば問題ない」と考えているかもしれません。しかし、その小さな逸脱が積み重なることで、やがて重大なコンプライアンス問題へ発展することがあります。
不正は一部の問題社員だけが起こすわけではない
コンプライアンス違反というと、倫理観の低い一部の社員が起こすものだと考えられがちです。
しかし、実際にはそう単純ではありません。
むしろ、真面目で責任感が強く、何とか目標を達成しようと努力する社員ほど、追い込まれた結果として不適切な行動に向かうことがあります。
本人に不正をするつもりがなくても、数字への強いプレッシャーの中で判断がゆがみ、ルール違反の心理的なハードルが下がってしまうのです。
特に注意が必要なのは、次のような職場です。
未達成に対する叱責が強い
結果さえ出せば細かいことは問われない
上司が暗黙に無理な営業を容認している
相談や異議申立てがしにくい
違反の芽があっても見て見ぬふりがされる
このような環境では、個人の資質の問題というより、組織として不正を誘発している可能性があります。したがって、不正の原因を個人だけに求めるのではなく、組織のマネジメントや評価の仕組みに目を向けることが必要です。
売上か法令遵守かという二者択一にしてはいけない
現場が苦しくなるのは、売上目標と法令遵守が対立するものとして受け止められているときです。
つまり、「ルールを守っていたら数字が達成できない」「達成するには多少無理をしなければならない」という発想です。
しかし、本来この二つは対立するものではありません。
短期的には、無理な販売や不適切な説明によって数字が作れたとしても、その後に苦情、返金、行政対応、取引停止、離職、報道などが起これば、会社が受ける損失ははるかに大きくなります。
一時的な売上を優先した結果、長期的な信用を失う。これは企業にとって極めて大きなリスクです。
コンプライアンスは、売上を妨げるためのものではありません。
むしろ、会社が継続して信頼を得ながら事業を行うための土台です。
この認識が経営層や管理職に十分共有されていないと、現場は常に板挟みになります。
不正が起きる会社に見られる共通点
営業現場における不正が起きやすい会社には、いくつかの共通点があります。
第一に、結果だけを見て過程を見ていないことです。
数字が上がっているかどうかばかりが評価され、その数字がどのように作られたのかに関心が向いていない会社では、不適切なやり方が温存されやすくなります。
第二に、管理職がプレッシャーの受け皿になれていないことです。
経営層からの圧力をそのまま現場に流し、数字の督促だけを繰り返す管理職の下では、部下は追い詰められやすくなります。
第三に、現場が「おかしい」と言えないことです。
このやり方は危ないのではないか、説明が不十分ではないか、今の指示には無理があるのではないかと感じても、それを言い出せない雰囲気があると、不正の芽は放置されます。
第四に、違反の兆候があっても初期対応が甘いことです。
小さな苦情や違和感のある報告を軽く見てしまうと、問題は水面下で広がっていきます。
このような共通点がある会社では、現場だけを叱っても根本的な解決にはなりません。
営業現場のコンプライアンス対策で本当に必要なこと
営業現場のコンプライアンス対策というと、ルールブックを配布する、研修を行う、誓約書を提出させるといった対応が思い浮かぶかもしれません。
もちろん、それらも必要です。
ただし、それだけで十分とはいえません。
現場で不正を防ぐには、次のような視点が重要です。
まず、数字だけでなくプロセスも評価することです。
結果に至るまでの行動、顧客対応の適切さ、説明の丁寧さ、社内ルールの遵守状況なども評価対象にしなければ、現場には「とにかく数字を作ればよい」というメッセージが伝わってしまいます。
次に、管理職への教育です。
現場不正の多くは、担当者個人だけでなく、管理職の関わり方に大きく影響されます。部下への詰め方、目標管理の進め方、相談を受けたときの対応などについて、管理職自身が学ぶ必要があります。
また、現場が声を上げやすい環境づくりも欠かせません。
無理な指示、危うい慣行、違反につながりそうな運用について、早い段階で相談できる仕組みが必要です。相談窓口や内部通報制度も、単に設置するだけでなく、実際に使える状態にしておくことが重要です。
さらに、経営層が明確なメッセージを出すことも必要です。
売上は大事である。
しかし、ルールを曲げてまで達成することは評価しない。困ったときには早めに相談してよい。こうした姿勢が現場に伝わって初めて、コンプライアンスは実効性を持ちます。
レピュテーションリスクは想像以上に大きい
現場で起きた不正や不適切対応は、その場だけで終わるとは限りません。
現在は、苦情がSNSで拡散し、報道や行政対応に発展し、企業名が広く知られてしまう時代です。
いったん企業の信用が傷つけば、顧客離れだけでなく、採用への悪影響、既存社員の士気低下、取引先からの信頼低下など、広い範囲に影響が及びます。そして、その損失は、単なる一件の売上未達よりもはるかに大きなものになり得ます。
だからこそ、営業現場のコンプライアンス問題は、単なる現場指導のテーマではなく、経営課題として捉える必要があります。現場任せにせず、経営、管理職、教育、相談体制まで含めて見直していくことが求められます。
まとめ
売上目標と法令遵守の板挟みの中で、現場が不正に向かうことは、決して特別な話ではありません。数字への圧力、評価への不安、職場の空気、管理職の関わり方などが重なると、真面目な社員であっても判断を誤ることがあります。
だからこそ、企業としては、違反を個人の問題として片づけるのではなく、なぜそのような行動が起きたのか、組織としてどのような圧力や構造があったのかを見なければなりません。
営業現場のコンプライアンス対策で重要なのは、ルールを教えることだけではなく、無理を無理と言える環境をつくること、管理職のマネジメントを見直すこと、そして売上と法令遵守を対立させない経営姿勢を明確にすることです。
営業現場のコンプライアンスリスク、管理職の関わり方、現場不正の予防、相談しやすい仕組みづくりなどに課題を感じておられる場合は、一度、自社の実態を点検してみることをおすすめします。問題が表面化してからではなく、表面化する前に手を打つことが、企業の信用を守るうえで何より重要です。
【関連記事】
⇒コンプライアンス強化
