内部通報制度が機能しない会社は、なぜ不祥事を止められないのか

中小企業が押さえるべき実務ポイント
「内部通報制度は整備しているはずなのに、なぜ不祥事が防げないのか」この疑問を持たれる経営者や人事担当者は少なくありません。

実際には、制度や窓口を設けていても、社内で不正やハラスメントの情報が適切に上がらず、問題が長期間放置されることがあります。そして、その結果として、外部への通報、SNSでの拡散、労働組合への相談、行政対応、場合によっては企業の信用低下にまで発展してしまいます。

内部通報制度は、会社の不正を暴くためだけのものではありません。むしろ、問題を社内で早期に把握し、是正し、会社を守るための仕組みです。もっとも、制度は作っただけでは機能しません。通報者保護への信頼、窓口担当者の対応力、経営トップの本気度、そして「おかしいことはおかしいと言える」組織風土がなければ、内部通報制度は形だけのものになります。

そこで今回は、内部通報制度が機能しない会社の特徴と、実際に機能させるために必要な実務対応について解説します。
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内部通報制度とは何か

内部通報制度とは、企業の法令違反、不正行為、ハラスメント、重大な社内ルール違反などについて、従業員等が会社に情報提供し、会社がその内容を確認・調査し、必要な是正措置につなげる仕組みをいいます。

この制度の目的は、単なる苦情受付ではありません。不正や問題行動を早期に把握し、深刻化する前に社内で対応することにあります。たとえば、次のような問題は、通常の業務管理や監査だけでは把握しにくいことがあります。

・上司によるハラスメント
・売上や成果を優先するあまり行われる不適切な指示
・長時間労働や残業代未払いにつながる運用
・情報隠しや虚偽報告
・一部の関係者だけで行われる不正行為

このような問題は、外からは見えにくく、社内で安心して声を上げられる仕組みがなければ、長期間放置されやすいのが実情です。
内部通報制度は、その見えにくい問題を拾い上げるための重要な機能を持っています。

なぜ今、内部通報制度が重要なのか

近年、企業に求められるコンプライアンス対応は、単なる法令遵守にとどまりません。ハラスメント、長時間労働、情報漏えい、不適切な労務管理、内部統制の不備など、企業の信用に直結する問題は多岐にわたります。

しかも、こうした問題は、ある日突然発生するわけではありません。多くの場合、現場では以前から違和感や小さな異変がありながら、「言いにくい」「我慢するしかない」「誰かが気づくだろう」と見過ごされ、やがて深刻化します。

この段階で、社内に信頼できる通報窓口や相談先がなければ、従業員は会社の外に解決を求めるようになります。その結果として、行政機関、労働組合、外部専門家、報道機関等への相談に発展すれば、企業にとっての影響は非常に大きくなります。

だからこそ、内部通報制度は「問題が起きた後の形式的な制度」ではなく、問題を外部化させないための実務的な危機管理手段として位置づける必要があります。

通報窓口を設置しても機能しない会社の共通点

通報した人が守られないと思われている

内部通報制度が機能しない最大の理由は、通報者が「自分が不利益を受けるのではないか」と感じていることです。制度が存在していても、

・上司に知られてしまうのではないか
・人事評価に影響するのではないか
・異動や配置転換につながるのではないか
・社内で浮いた存在になるのではないか

このような不安があれば、従業員は通報をためらいます。

とりわけハラスメントのような問題では、被害者や相談者が孤立しやすく、会社への不信感が強い場合には、社内窓口ではなく外部への相談を選ぶ可能性が高くなります。したがって、内部通報制度の出発点は、窓口の設置そのものではなく、通報者が守られるという信頼をどう確保するかにあります。

窓口担当者が適切な対応をできない

相談窓口を設けても、担当者の対応が不適切であれば、制度は機能しません。むしろ、相談を受けた対応によっては、制度自体への不信感を高めてしまいます。たとえば、

・話を軽く扱う
・感情的な反応を示す
・相談内容を安易に共有する
・記録をきちんと残さない
・初動対応が遅れる
・相談者への配慮を欠く

このような対応があれば、通報者は「相談しても意味がない」と感じます。

内部通報制度は、窓口を置くだけで完成するものではありません。誰が、どのような手順で、どのような姿勢で対応するのかまで含めて設計・教育しなければ、現実には機能しないのです。

経営トップの姿勢が見えない

従業員は、制度の説明文よりも、経営トップの姿勢を見ています。

「問題があれば声を上げてよい」
「相談した人は守る」

「会社は問題を真摯に受け止め、必要な是正を行う」

こうしたメッセージが明確に発信されていなければ、制度への信頼は生まれません。

逆に、成果や数字ばかりが重視され、問題提起が歓迎されない雰囲気がある会社では、通報制度はあっても使われなくなります。制度を機能させるには、経営トップが自浄作用を働かせる意思を明確に示すことが不可欠です。

社内に「言いにくい空気」がある

内部通報制度以前に、日常の職場の中で「それはおかしい」と言えない空気がある会社では、問題が蓄積しやすくなります。たとえば、

・上司の指示に異議を唱えにくい
・法令上グレーな運用でも黙認される
・周囲に合わせて違和感を飲み込む
・声を上げる人が“面倒な人”と見られる

このような状態では、不正やハラスメントの芽があっても、社内で止まりません。内部通報制度は最後の安全装置です。しかし、本来大切なのは、そこに至る前に、日常的に意見や懸念を表明できる組織風土をつくることです。

内部通報制度が機能すると会社にどんなメリットがあるのか

不正やハラスメントの早期発見につながる

内部通報制度が適切に機能すると、見えにくい問題を早い段階で把握できるようになります。不正やハラスメントは、放置されるほど被害が拡大し、関係者も増え、対応が難しくなります。

早期に情報が上がれば、事実確認や是正措置を速やかに進めることができ、企業にとってのダメージを最小限に抑えやすくなります。

外部通報や企業信用の毀損を防ぎやすくなる

従業員が社内窓口を信頼できる場合、会社は問題を社内で把握し、改善に向けた対応を取る機会を得られます。これは、報道機関、行政機関、SNS等への外部流出を防ぐうえでも非常に重要です。

もちろん、社内対応ですべてを解決できるとは限りません。しかし、少なくとも「会社は何もしてくれなかった」という状況を避けやすくなる点で、内部通報制度は大きな意味を持ちます。

労使トラブルの予防につながる

ハラスメントや不適切な労務管理が放置されると、個別の不満はやがて労使トラブルに発展します。特に、社内で相談しても改善されない場合には、労働組合や外部専門家への相談につながりやすくなります。

その意味でも、内部通報制度は単なるコンプライアンス対応ではなく、労使トラブル予防の仕組みでもあります。

企業が内部通報制度を整備する際の実務ポイント

相談・通報ルートを明確にする

まず必要なのは、「どこに、どのように相談・通報すればよいのか」を明確にすることです。窓口が曖昧であれば、従業員は利用しません。

・社内窓口はどこか
・メール、書面、面談など、どの方法で受け付けるのか
・匿名通報を認めるのか
・外部窓口を設けるのか

こうした点を整理し、就業規則、社内規程、周知資料等で明示することが重要です。

秘密保持と不利益取扱い禁止を明確にする

制度に対する信頼を確保するためには、秘密保持と不利益取扱い禁止を明確にする必要があります。

・通報内容の取扱い
・個人情報の管理
・調査関係者の守秘義務
・通報を理由とする解雇、異動、不利益評価等の禁止

これらを明文化し、従業員に分かる形で周知することが重要です。制度があるだけでなく、「会社は本当に守るつもりがある」と伝わる状態にしなければなりません。

窓口担当者への教育を行う

内部通報制度の成否は、窓口担当者の対応に大きく左右されます。
そのため、担当者に対しては事前に実務教育を行う必要があります。具体的には、

・初期対応の基本
・傾聴とヒアリングの進め方
・守秘義務と情報管理
・記録の残し方
・エスカレーションの判断
・二次被害の防止

といった内容を押さえる必要があります。

制度だけ整えても、担当者教育が不十分であれば、かえってトラブルを拡大させるおそれがあります。

社内対応が難しい場合は外部窓口も検討する

中小企業では、社内だけで中立性や匿名性を担保することが難しい場合があります。従業員数が少ない企業ほど、「誰が通報したのか」が推測されやすく、社内窓口を使いにくいこともあります。

このような場合には、外部専門家による通報窓口の活用も有効です。社外窓口を設けることで、従業員にとっての心理的ハードルが下がり、制度が利用されやすくなることがあります。

内部通報制度は“制度だけ”では機能しない

ここまで見てきたように、内部通報制度は重要です。しかし、制度や規程を作っただけで不正やハラスメントがなくなるわけではありません。

本当に必要なのは、問題が起きた後の対処だけでなく、問題が起きにくい組織をつくることです。たとえば、

・管理職に対するハラスメント防止教育
・コンプライアンス意識の浸透
・成果偏重に偏らないマネジメント
・現場の声を吸い上げる仕組み

こうした日常的な組織運営が伴ってこそ、内部通報制度は生きた仕組みになります。

つまり、内部通報制度は単独で存在するものではなく、コンプライアンス体制、ハラスメント対策、管理職教育、労務管理の適正化と一体で考えるべきものです。

まとめ

内部通報制度は、不正やハラスメントを社内で早期に把握し、是正するための重要な仕組みです。しかし、制度を設けただけでは十分ではありません。制度を機能させるためには、少なくとも次の点が必要です。

・通報者が守られるという信頼
・窓口担当者の適切な教育
・経営トップの明確な姿勢
・声を上げやすい組織風土
・必要に応じた外部窓口の活用

「制度はあるが、本当に機能しているか不安がある」
「ハラスメント相談窓口も含めて見直したい」
「窓口担当者向けの研修を行いたい」

このような場合には、制度設計だけでなく、運用・教育まで含めて見直すことが重要です。

内部通報制度は、問題が起きた後のための仕組みであると同時に、問題を大きくしないための経営基盤でもあります。

この機会に、自社の制度が“あるだけ”になっていないか、見直してみてはいかがでしょうか。

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