カスタマーハラスメント対策が企業の義務に:これから求められる労務管理の視点とは

顧客による著しい迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」対策を企業に義務付ける改正労働施策総合推進法などが成立しました。これは、長年にわたりサービス業を中心に従業員の心身に深刻な影響を与えてきた悪質クレームや迷惑行為に対し、ようやく法制度が本格的に動き出したことを意味します。

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改正労働施策総合推進法は、2026年中には施行される見込みです。企業は、従業員をカスハラから守るため、対応方針を明確化することや相談窓口を設置することなどが義務となります。パワハラやセクハラはすでに企業の防止義務がありましたが、カスハラについてもパワハラやセクハラと同様の対応が必要となります。

厚生労働省は2020年の「パワハラ防止指針」においてカスハラ対策を「望ましい取組」と位置づけて以来、段階的に制度整備を進めてきました。そして2023年には、労災認定の心理的負荷要因にもカスハラが明記され、企業の責任が問われる場面も増えてきました。

そもそもカスハラとは何か?厚生労働省の定義によれば、カスハラとは以下の3つの要素を満たすものです。

1. 顧客からのクレーム・言動で、要求の内容の妥当性を欠き、
2. その手段・態様が社会通念上不相当であり、
3. その結果、労働者の就業環境が害されるもの

つまり、単に「お客様が怒っている」「クレームを言われた」というだけではカスハラとはなりません。妥当な要求であり、態様が穏当である限り、むしろ企業として真摯に対応すべき「サービス改善のヒント」とも捉えることができます。

一方で、威圧的な言動や暴言、土下座の強要、長時間の拘束、SNSでの誹謗中傷、セクハラ行為など、社会常識を逸脱した言動はカスハラに該当します。

労働者の団体であるUAゼンセンが2024年初めに実施した組合員調査によると、実に約4割の労働者が直近2年以内にカスハラ被害を経験しており、特に女性従業員、サービス業の現場で深刻な状況が確認されています。

・客の勘違いによる返金要求と恫喝(百貨店)
・リモコン操作を説明しただけで「カス」と罵倒(家電販売)
・レジ袋が有料なのが気に食わないとパンを投げつける(食品販売)

こうした行為が日常化することで、従業員は「接客が怖い」「職場に行きたくない」と感じ、心身の不調、休職、ひいては離職につながります。

企業がカスハラを放置した場合のリスク

カスハラを放置することの企業リスクは、決して小さくありません。

・労災認定の対象となる(2023年改正)
・安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる
・企業イメージや従業員の定着率の悪化につながる

実際、甲府地裁(平成30年11月13日)では、保護者からの理不尽な言動に対して学校側の対応が不十分であったことが「不法行為」と認定され、自治体に損害賠償命令が下されました。
一方で、東京都内の小売業では、苦情対応体制を整えていたことにより、安全配慮義務違反が否定された事例もあり、「企業としてどこまでやっていたか」が法的評価の分かれ目となります。

企業が今すぐ始めるべき5つの対策

法制化の動きに備え、今すぐ企業が実行すべきカスハラ対策の柱は以下の5つです。

1. トップメッセージの発信と基本方針の明文化
2. 従業員への研修とマニュアル整備
3. 相談窓口の設置と記録の整備
4. 警察・弁護士等外部との連携
5. 取引先への対応ルールの整備

カスタマーハラスメントは「人権の問題」と捉える視点が必要です。労働者が安心して働ける職場づくりの第一歩は、「理不尽に我慢させない」ことです。いくら「お客様第一」と言っても、従業員が心をすり減らしていては、顧客満足など到底あり得ません。「従業員ファースト」から「顧客ファースト」へ。この順番を誤ってはいけない時代が、いよいよ法的にも到来しようとしています。

企業の皆様には、法制化を待つのではなく、自社の「働きやすさ」「従業員の尊厳」を守るためにも、早急にカスハラ対応に取り組むことを強くおすすめします。

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